高山病もある程度落ち着いた夕暮れ時、外は暗くなりはじめているのに部屋の中に明かりがない。どうやらまだ電気がきていないようだ。
客間にてひとり、立ち上がれるわけでもなく、せめて気だるい身体を起こして座っていた私のところに、ギュルメットのお父さんが来て言った。
「一人で居てもつまらないだろう。あっちの部屋にいらっしゃい。」
行ってみると、さほど広くはないキッチンにお母さん、ギュルメット、そして紹介していなかったがギュルメットのお姉さんの子(1歳半の女の子)、そして、ギュルメットが連れてきたさっきの従兄弟のお兄さんがいた。明かりのないキッチンで肩を寄せてお茶をすすりながら時をやりすごしているようだった。
従兄弟の兄さんの名はワンボといった。彼らの家は目と鼻の先、つまり目の前にあるのだが、あちらが本家で、ギュルメットのこの家が分家にあたる。
ワンボはギュルメットに比べると背格好は小さいが、長男坊だからか、実年齢的なものか、何か兄貴分である貫禄が感じられる。
このワンボとは先ほど、敗北感に乱れつつも、気を取り直して“初めまして”の挨拶をし、お互い自己紹介をしていくうちにいろいろ共通点があったりしてすぐに打ち解けられたのだった。
まず、彼は私が滞在していたマイソールの施設のすぐ近くにラダックの友人達と一緒に住んでいて、大学に通っていたと言うからローカルネタで話が膨らんだ。そして更にその後デリーにもいたというのだけど、それも私の友人の住んでいる南デリーの近くに住んでいたらしく、よく遊びに言っていた場所だったとか、まあ、偶然とは言えすっかり盛り上がったのだ。
それにしても、さっき遠慮してすぐには部屋に入ってこなかった人だとは思えないほど、はっきりと力強くしゃべり、若いのにしっかりしてるなあ、と思わされるアチョ(兄さん)だった。
そして、彼もこれまたきれいなヒンディー語を話すので驚いた。(よほど、私はラダックの人がヒンディー語はそんなに話せない、と思っていたようで、大袈裟に感動しているのでご容赦いただきたい・・・。)
そう、そして私が人のヒンディー語の評価?(偉そうに!)らしきことを言ってるので気に障られるかもしてないが、私は決して悪気はなく、自分自身ぜんぜん流暢ではないことを断っておきたい。ただ、人がどんなヒンディーを喋るかを感じるのが好きで、ついついそういう言い方をしてしまうのだ。
ヒンディー語は一応インドの公用語であるから、特に北インドではほとんど通用するけれど、地方独特の言い回しがあったり、発音があったりもする。また、いわゆるピュア・ヒンディーだと言うバラナシの辺りだとか、つまりウッタルプラデシュ州や、デリーあたりを除いては、多くのヒンディー語話者が、その外にローカルの言語も話す人たちなのだ。だから、あくまでヒンディーは共通語として存在しているから、そういう意味で多様な“スタイル”を持っているような感じがする。
それは、世界の中の英語の位置づけにも似ているのかもしれない。ネイティブと言われるエリアがあり、話者がいるけれど、便利な共通語としてその他のあらゆる国の人たちが英語も話すように。そして、それはけっしてネイティブとは言い切れなくても、でも充分それなりに英語を使う人たちがいたりする。これと同じようにヒンディー語も存在していると思う。
そういうヒンディー語だから、人によっては読み書きは分からないけど話す人もいるし、一度も教育としては受けたことないけど身についていて話す人もいるし、方言と混ざって話す人もいる。、時にはインド人とはいえ間違って使っていることなんかもよくあることなのだ。
私はそういう、いい意味で幅の広い、いや、もっと言うと懐の深い背景を持った言語であるヒンディー語が大好きになっていった。
話をキッチンに戻そう。
まだ朝夕は寒さが残るこの時期、身体を冷やさぬよう、常にかけとくようにと言われ、薄暗いキッチンに毛布を持参して登場した私。皆が大丈夫かと心配しながら座れ座れと気遣ってくれる。そして夕食の支度が始まるようだった。するとワンボは私に改めてこう言った。
「今日はWELCOMEディナーだから僕がごはんを作るよ!」
「わ~、ありがとう!」
私はありがたく素直に喜んだ。
彼ら親戚同士の関係も垣間見れたような気がした。このような距離感なのだというのがよくわかる。
いいなあ、こういう風にすぐ近くに親戚が住んでたりするのって。
私、こういうのに憧れてるんだよね・・・。うらやましいわ!
おかげさまで、おいしいディナーにありつけた。
ワンボが作ってくれたのは、自分も大好きだという“アル・マタル”
(じゃがいもとグリーンピースのカレー)
いわゆるラダック料理ではなかった気がしたが、身体の調子がイマイチなので、
食べなれた優しい味がありがたかった。ラダック料理はまた徐々に楽しめるだろう。
さて、この初日の夜さえぐっすり眠れれば、明日にだって遊びに出かけられるのだ。
日中、さんざん寝たのだけど、また更に寝て明日に備えようと、床に入った。
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