ちょっとしたらギュルメットが来て、バイクを返しに行ってくると言う。
「おっと、ちょっと待った!」
それは私も行かなければならぬ。何を隠そう、そのバイクを貸してくれた人は私が知っている数少ないストックの人だったからだ。
彼はギュルメットも学んでいる仏教系の学校&寄宿舎に関わる仕事のために、はるばるラダックから来ていた。私たちはちょうどその時南インドで会ったのだった。それも記念すべき、今回インドに着いたその初日に出会ったのだった。これも何かの縁だったのだろう。今回は絶対ラダックに行くと決めていた私に連絡先をくれて彼の仕事の話などをしてくれた。彼は外国人に瞑想を教えたりするワークショップをやっているのだという。毎年各国からいろんな人が来ていて、それはまあ、見事なほどいろんな国の事情を知っているのだ。
瞑想を志願してくるような人なので場合によってはとても重い心の闇を抱えている人もいる。また、仏教思想の話になるとすごく議論したがる人もいて、ものすごくたくさんのディスカッションをしたこと、などなどいろんな人が話しに登場してくる。その国独特のアイデンティティーや、その特徴的な出来事など、彼はこの仕事を通してよく熟知していた。そんな訳で随分盛り上がって話していた。私から見た日本人や日本のことなんかも伝えて語り合った。非常に興味深い人で、勉強になる話をしてくれる人だった。彼は国際結婚していて奥さんと子どもと共にストックに住んでいるという。ぜひ遊びにいらっしゃいと言われて、間違いなく行くだろうと思っていたのだが、その後、更にギュルメットにも出会って、本当にストックに滞在することになるとは・・・。不思議な因縁を感じる。
私とギュルメットは再びバイクに乗って、しばらく下へと下って行った。バイクではそう遠く感じなかった。やはり彼の家も小高いところにあった。庭を通って家の中に入ると、ギュルメットは何やら挨拶してラダック語でしゃべった。見ると彼は居間に座っていた。
「ジュレー!」
またもお約束のご挨拶。少し驚いたように挨拶したかと思うと彼はちょっと神妙な顔で言った。
「何で君もこんな所までいっしょに来たんだ~??」
いきなり、歓迎されていない感じなの??戸惑う私に彼は続けた。
「君は、今日は一日寝ていないといけないんだよ。高山病の症状が出てくるよ!」
私もギュルメットも、きっとポカンとしていただろう。え、そうなの??こんなに動いていちゃヤバイの?高山病の症状とかいろいろ読んだつもりだったけど、どこにも“すぐに寝なさい”とは書いていなかった。そんなこと誰も教えてくれなかったし~!誰もって誰のことなのかよく分からないが、なんとなくそう思った。
「そうなんだ。知らなかった。まあ今は大丈夫だけど、でも確かにちょっと頭が痛くなってきてるかも」
暗示にかけられたように急に高山病になっている気がしたのか・・・。本当にぼとぼち症状が出てきているのか。私には初めてのことで判断がつかない。それからというもの、手馴れた感じで彼は私たちに高山病の対処方法、適応する方法などを説明してくれた。
「まず今日はひたすら寝ること。ぐっすり深い眠りにつけて夜も充分に寝れれば、明日にはレーの街に遊びに行ったっていい。それと、しばらくは水は飲まないこと。とにかく温かいお湯を飲むように。もし、高山病の症状がおさまらなかったら・・・、その治療方法はたった一つ。下山するのみ」
そうだった。確かに下山しか治療はないとはよく書いてあった。でも、お湯を飲めとか、一日中寝ていろとは書いていなかったのだ。そうか、そういう風にやるんだ。ギュルメットだって外国人用のこういう対処方法は知らなかったようだ。無理もない。ラダックの人と私たちのような外国人は身体の構造が違うっていうか、生まれ育った場所が違いすぎている。当たり前の適応ができないことを想像する方が難しいかもしれない。
手ほどきを受けた私たちは早速家に帰ることにした。しかし、これがマヌケなのだが、返しに来たはずのバイクに乗ってまた戻るよう諭される。
「今の状態では10m歩くのだって辛いはずだ。ましてこの距離を歩いて帰るなんて絶対に無理だ!君はいったんギュルメットと共にバイクで帰って、その後、ギュルメットが一人でバイクを返しに来ればいい」
バイクであっとう間に下ってきたから近いのだと思っていたら、歩いたら20分か30分はかかるという。距離感がわからない。なんと言う無駄足を踏んでいることか。それでも、知恵を授かったのでありがたかった。ありがとう!感謝を表してひとまず帰宅。話はまたの機会にゆっくりと・・・。
それからというもの、ギュルメットは急に私を病人扱い?で彼からは緊迫感すら漂ってきた。
「まずは水は飲むなっていってたよな、母さんにも言って水はダメだって言っておく。それでお湯をポットに入れて用意するからそれを飲んで。そして、とにかくよ~く寝ろって。それも深い眠りだ。帰ったらすぐ寝るんだよ」
ほとんど彼が言ったことの復唱である。大丈夫だろうか。私の高山病よりもギュルメットの緊迫感の方が心配になってくる。そうは言っても、私もだんだんと頭痛がひどくなってきていた。頭が割れるような、何か圧迫した感じが波を打つようにやってくる。ああ、高山病って確かに辛いかも・・・。
私は自分の部屋として使っていいといわれた客間で、持ってきていたセーターを着て、何枚も毛布をかけてもらってひとまず眠りについた。そう、まだこの寒さにも慣れていない私だった。
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